もるひのRO日記(Iris在住)
by moruhi
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カテゴリ:RO小説( 7 )
もる温泉復活集会★第一回
もるひデス。
Irisマンドラゴラ森の温泉で開催された「もる温泉」の復活集会。
はじめての開催から考えれば実に3年ぶりの復活……ひさしぶりというか懐かしいというか。
特にイベントという形ではなく、「温泉でまったり」をコンセプトにのんびりと過ごす集会でゴザイマス。もるひも温泉客なんだョ。
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※好き勝手に遊ぶ温泉客。

温泉レポートは雪香さんのサイトによくまとまってマスので、コチラをご参照クダサイ。
らぐなのはじめてなの。
※RO初心者にして草刈りにハマった将来有望な子デス。

サテ。
温泉集会をやって改めて感じましたのが、「なんにも変わってないナァ」というコト。
ROを取り巻く世界は日々めまぐるしく変化しておりマスが、まったりを愛するココロはなんら変化しておりません。
昔に比べたら、もるひも遙かにレベルがあがってマスし、他の人も同様、転生した人もいれば大規模GvGギルドのGMになっている人、はたまた初心者さん、すでに引退してしまった人まで……。
でも、そんな人たちが分け隔てなくのんびりできる空間、それが「もる温泉」の魅力なのデス。
他のイベントとは一風変わった雰囲気を味わえるかと思いマス。

3年前に比べたら職業もスキルもアイテムも多く実装されていマスので、一発芸が幅広くなっているのも楽しいデス。まだまだ開拓の余地がありそうだョ。
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昔ながらの温泉メンバー、このサイトを見てハジメテ遊びにきてくれた方、いろんな人とお話できて、すごく充実した時間を過ごすコトができマシタ。
みんなアリガトウ★
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サテ、今後のもる温泉集会デスが、秋から初冬にかけては定期的に開催しようと思っていマス。
次回は10月22日(土)22時から開催予定〜。
今回参加できなかった方も、ぜひぜひお越しクダサイませ★
それでは、また来週。
ちょぴッ☆

もる温泉復活おめでとー★【拍手】
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by moruhi | 2005-10-16 15:26 | RO小説
【RO短編】 やくそく 〜前編〜 (初出:2004.6.28)
もるひデス。
以前に公開していた作品をコチラに再UPいたしマス。
字数制限という小賢しい理由で恐縮デスが、前編・後編に分けてありマス。ホントは一気に読んでほしいんデスが。
まぁ、ココロに余裕があるときにでもドウゾ…。


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【やくそく】


昼間の森は静かで穏やかでしたが、それでも悪い魔物はたくさん潜んでいます。
もちろん、それを退治して経験を増やそうとする冒険者たちも、それこそ数え切れないほどいるのです。
今日もひとり、アコライトの女の子が元気な掛け声とともに闘っていました。
「えいッ!」
振り下ろすのは、金属製の鈍器・ソードメイス。
両手でしっかりと柄を握り、顔を真っ赤にして魔物たちに挑みかかります。
……ですが、ちっとも相手に当たりません。
武器が重すぎるのでしょうか、相手がすばしっこすぎるのでしょうか。
何度目かの攻撃はやっとヒットし、小さな動物みたいな魔物はぴーぴー鳴きながら、どこかへ逃げていってしまいました。
「ふぅ……」
純白の正装に身を包んだアコさんは、額に落ちてきた髪をかき上げ、ため息をつきます。
首筋が汗でびっしょりと濡れています。この森にやってきてから、まだそれほど時間はたっていません。自分の体力のなさを痛感します。
「こんなんじゃ、いつまでたっても強くなれないよ……」
ぽつんと弱音を吐いたアコさんでしたが、ふるふると首を振りました。悩むヒマがあったら体を動かす方がいいのです。
『よし頑張ろう』と気合いを入れ直し、またしばらく小さな魔物たちを相手にします。気力だけは充分なのですが、やっぱりすぐに疲れてしまいます。ちっとも強くなった気がしません。
アコさんは、『ふぅ』と何度目かのため息をつきました。

そのときです。
「がんばってるね」
ふいに、声をかけられました。
振り返ると、そこには女の人が立っていました。
服装からして、モンクさんです。素手だけで敵を倒す格闘家。アコさんより何十倍も強いはずです。
さっきから誰かに見られている気はしていたのですが、どうもこの人の視線だったようです。
「なによぅ、馬鹿にしないでよぅ。どうせ私は弱いですよぅ」
アコさんは頬を膨らませました。
でも、その人は馬鹿にしているわけではありませんでした。
にっこりと、優しそうに微笑みます。
「一緒に休憩しようよ。あんまり無理すると疲れちゃうよ?」
そう言って、『ほら、おいしいお弁当もあるから』と、手にしたバスケットを掲げてみせるのでした。
(なんなんだろう、変な人)
そう思いながらも、アコさんのおなかは『ぐぅ』とくぐもった声で鳴いてます。
誘われるがまま、モンクさんと一緒に昼食を取ることにしました。
「はい。どうぞ」
渡されたサンドイッチには、たっぷりの野菜が入っていました。新鮮で甘い味が口に広がります。
いつも露店で大量に安売りされてるお芋をかじっていたので、こんな手のかかった料理を外で食べたのは初めてでした。
さっきまで膨らませていた頬が、自然と緩むのを感じます。
「おいしい」
「よかった。まだあるから、どんどん食べてね」
こくこくと頷き、もぐもぐと口を動かします。それをにこにこと眺めているモンクさん。
魔物も住んでる危険な森でしたが、なんだかそこだけが平和になったような気がしました。
(落ち着くなぁ。のんびりもいいなぁ)
そんなふうに思ったアコさん。
だから、少し油断していたのでしょう。
その隙を狙ったかのように、突然、草むらから何かの影が現れたのです。
ひょいとその気配に目を向けたアコさんは、驚きのあまりサンドイッチを地面に落としてしまいました。
「ば、化け物……!」
見たことのない、大きな魔物でした。
ここに来たのはごく最近で、今まで小さな魔物しか相手にしていなかったのです。
こんな怖そうな怪物が出没する場所で戦っていただなんて……アコさんは自分の無知を呪いました。頭が真っ白になって、どうしたらいいか分からなくなってしまいました。
でも、一緒にいたモンクさんは冷静でした。
「さがってて」
声もでないアコさんの前に、モンクさんがすっと進み出ます。
怖い魔物は、身もすくむ雄叫びをあげて殴りかかってきました。
一瞬でした。
すれ違いざま、モンクさんの拳が突き刺さります。
ずずん、と倒れる魔物。
あまりの速さと強さ。アコさんは目を丸くしました。
「すごい。モンクさん、強い」
「そんなことないよ」
モンクさんは謙遜して微笑みました。
そんな自然な姿がすごく格好良く魅力的で、アコさんはすっかりこの人が好きになってしまいました。
——私も、この人みたいになりたい。
「あの。サンドイッチ、ありがとう」
はにかみながら、アコさんは自分の今の思いを伝えました。
「私、強くなりたいんです」
まっすぐに目を向けて、アコさんは思ったことをそのまま告げました。
「強くなって、いつかモンクさんと一緒に闘ってみたい!」
そういうと、モンクさんはきょとんと目を丸くしました。でも、すぐに笑顔になって、うんうんと頷きました。
「わかった。あなたが強くなるのを楽しみに待ってるよ」
「うん。ゼッタイだよ。約束だよ」
ゆびきりげんまん。
小指を絡めて、二人は照れたように笑いました。

——そんなモンクさんは、これからさらに自分を磨くための旅に出るといいます。
出会いに、別れは付き物ですから。
「ああ、そうだ」
別れ際、モンクさんはポンと手を打ちました。
「これ、あげるよ」
もらったのは、小さなガラスの瓶でした。中は黄金色に透き通る液体で満たされています。
「それを飲むとね、なんて説明したらいいのかな……うん、元気が出るよ。きっと、あなたの手助けになってくれる」
「ふぅん……そうなんだ?」
半信半疑でしたが、モンクさんが言うなら間違いはないだろうと思いました。『ありがとう、大事に使うよ』とお礼をいいました。
「じゃあ、またね」
「うん、どこかで」
互いにそんな言葉を交わし、二人は別れました。
モンクさんの後ろ姿を見つめながら、アコさんは『よし』と拳に力を込めました。


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モンクさんからもらったその飲み物の効果は、それは素晴らしいものでした。
狩りの直前に、ちょっと口にするだけでいいのです。
体中に力が溢れて、今まであんなに重かったソードメイスが、いとも簡単に振り下ろせるようになったのです。
「これなら、がんばれそう」
体だけでなく、心も軽くなったようです。
アコさんは張り切って、魔物をやっつけにでかけました。
いつもより、たくさん戦い抜くことができました。ソードメイスも、ずいぶんと手に馴染んできた感じです。
ちょっと疲れて休憩したとき、ふとアコさんは思いました。
「そういえば。この飲み物、なんていう名前なんだろう?」
特に名前まで教わってはいませんでした。でも、なんらかの『魔法の薬』ではないかと思いました。
小瓶に満たされた、自分の夢を叶えてくれる魔法の薬。眺めているだけで幸せな気分になってきます。

そんな数日を過ごしていると、やがてもらった薬がなくなりそうになりました。
「困ったなぁ。これがないと狩りもやる気がでないよ」
この辺りの魔物にも慣れ、アコさんの実力もあがっていますから、たとえこの薬がなくてもある程度の相手ならやっつけられるでしょう。でも、それでは物足りません。狩りの前のおまじないといいますか景気づけといいますか、そういう心構えに必要なものでした。
アコさんは、街で同じものを探すことにしました。
きょろきょろしながら歩いていると、中央通りからちょっと外れた裏路地に、一軒の露店が開いていました。
そこにはたくさんのガラス瓶が並び、いろんな色をした液体で彩られています。
試験管やフラスコといった見るからに怪しい容器もありましたが、その中にアコさんは黄色の液体の入った、小瓶を見つけたのです。
「すみませんッ」
アコさんは勢い込んで声をかけました。
「このお薬、ください!」
本職は錬金術師でしょうか、その店の主は『まいど』とやる気の欠けた応対で商品を手渡しました。思ったほど高い値段ではありませんでした。
目的のものが購入できてアコさんは満足でしたが、そこに並ぶ他のお薬も気になってしまいました。
「あの、こっちの緑色の小瓶はなんですか?やっぱり元気がでる飲み物?」
「ああ、これね。うん。そんなもんだよ。黄色いやつの強力版、って考えてもらえば」
「へぇー、いろいろ種類があったんだ。じゃあ、こっちのお薬もくださいッ」
「いいけど、少し高めだよ、うん。それに君には合わない気がするな」
「でも、私はもっと強くなりたいんです!」
拳を固めて力説すると、その人は特に興味なさそうに頷きました。
「そこまで言うんなら売ってあげるけど、返品は勘弁してね。ちょっとアコさんの口には合わないかもしれないからね、おそらくびっくりしちゃうと思うんだ。ああ、自分が売ったとかいうのはあんまり人に言いふらしちゃダメだよ。いやホント、どうなっても知らないからね、知らないよ——」



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その緑色の飲み物は、ちょっと苦い気もしました。
でも、『良薬口に苦し』という言葉を信じて、アコさんは思い切って半分ほど飲み干しました。
あの錬金術師さんが言ったとおり、本当にびっくりしました。黄色いお薬よりも、もっともっと、数倍効果があったのです。
「すごいや」
アコさんはソードメイスを軽々と振り回し、魔物を叩き飛ばしました。
「自分の体じゃないみたい」
神経がピンと張り詰める感じです。草むらに隠れた魔物の気配を感じることができるほどです。
闘うことが楽しくなって、アコさんはますます狩りに熱中しました。敵を倒す経験を積んで、強くなっていく自分を実感できました。この手で武器を握り、この足で狩場を駆け、この力でトドメを刺すのです。
強く成長する喜び。それも飛躍的に。アコさんは嬉しくてしょうがありません。
……その緑色の薬なのですが、やっぱり持続時間があるようです。
効果が切れると、突然ガクンと虚脱感に襲われます。黄色い薬のときはあまり気付かなかったのですが、少し強い薬になるとその差は歴然としたものでした。
「あっと。そろそろクスリが切れちゃうかな?」
自分の腕の動きが鈍り始めたのを見計らって、アコさんはまた緑のクスリを飲みました。
また体に力が戻ってきて、アコさんはぐっと腕に力を込めました。
「この魔法のクスリさえあれば、私はどんどん強くなれるんだ♪」
あの人と交わした約束も、いつか……。
そう思い、アコさんは一人、微笑みました。
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by moruhi | 2005-08-30 01:46 | RO小説
【RO短編】 やくそく 〜後編〜
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ある日のことです。
アコさんはいつものように狩場をめぐっていました。相手にする魔物もどんどん手強くなってきて、でもそれは自分も強くなってきたことを証明するものでした。
「あっと。そろそろ薬がなくなっちゃうな」
ふと荷物をチェックしてみたのですが、用意してきた瓶はすっかり空になっています。どうも、さっきのが最後だったようです。また街に買いに戻らないとです。
「今日はだいぶ闘って疲れてきたし、そろそろ帰ろう」
だるくなった腕の曲げ伸ばしをして、そんなふうに思った——そのときです。
なにかが、近づいてくる気配がしました。
(魔物?)
アコさんは身を引き締めました。ソードメイスを側に引き寄せ、いつでも横に薙げる体勢を取ります。
がさ、っと草をかき分けて現れたのは。
「……なんだ。人間か」
その騎士さんは、剣の束にかけていた手を離しました。
「こんなところで。魔物かと思った」
それはお互い様でした。
相手が人間だったということで、アコさんは緊張を解きました。
騎士さんも同じ気持ちだったらしく、軽い口調で話しかけてきました。
「こんなところにアコさんがいるなんて、驚いたな。ここらに棲んでる魔物、けっこう強いだろう。一人?」
アコさんは頷きました。
「ふぅん。世の中、すごい女の子もいるもんだね」
その騎士の男の人は、ここで休憩をするつもりのようでした。荷物から、いくつかの携帯食料を取り出しています。
(……あれ?)
ぼんやり様子を眺めていたアコさんでしたが、ふと荷物の中にあるものを見つけました。
いつも見慣れた、あの小瓶です。でも、中に入っている液体の色が違いました。
黄色でも緑色でもなく。
赤いおクスリでした。
「あの」
アコさんは思い切って聞いてみました。
「それは、なんの薬ですか?」
「あ?ああ、これかい。これを飲むと、すごく体が軽くなってさ。ほら、この重い両手剣だって自由自在に振り回せるんだよ。どんな敵が来ても怖くないね」
思ったとおりでした。
こんな強そう騎士さんが愛用している品です。きっと、ものすごい効果があるに違いありません。
アコさんは、そのクスリがどうしても欲しくなってしまいました。
「それにしても、アコさんが鈍器で殴るとはねぇ。勇ましいというか、野蛮なもんだ」
からかうつもりだったのでしょうが、騎士さんはそんなことを口走りました。『戦闘は俺たちに任せとけばいいんだよ』という自信にも聞こえました。
アコさんは、少しムッとしました。
「そんなことないよ。私だって、騎士さんに負けないくらい強いよ」
「またまた。おてんばというか、負けん気の強いアコさんだなぁ。……だいたい、アコライトってのは相手を癒す職業だろう?」
干し肉をかじりながら、騎士さんは笑いました。
「アコさんはな。俺らの背中に隠れてピーピー喚いて、回復魔法でも唱えてればいいんだよ」

——好意的に解釈すれば、『女の子に前衛をさせるわけにはいかないぜ』という騎士さんの男らしい優しさだったのかもしれません。
でも、アコさんにはそう聞こえませんでした。
今まで頑張ってきた自分を、すべて否定された気がしました。
頭の中で、なにかがぐらりと傾きます。
完全にクスリが切れて、全身を耐え難い倦怠感が襲います。
頭がぼうっとかすんで、立ちくらみにも似た感覚です。

……なんだろう、すごく頭が痛いや。
……胸が苦しいな。いつもよりズキズキするよ。
……おクスリ、欲しいな。ああ、楽になりたい。
……あの、真っ赤なのがいい……。

騎士さんは休憩を終え、また出発する準備を始めました。
アコさんは、ゆらりとした足取りでその背中に近づきました。
こちらの気配に、騎士さんは特に気付いていないようです。きっと油断しているのです、だって相手は人間ですから。か弱いと思われている、アコライトの女の子ですから。
そんな無防備な騎士さんの後頭部をめがけて、アコさんは握りしめたソードメイスを、

——振り下ろしました。

『ぐしゃり』と嫌な音を立てて騎士さんは地面に倒れます。
困惑と驚愕が混ざった顔でこちらを見上げる騎士さん。その顔面に、アコさんは凶器を叩きつけました。
何度もです。
何度もです。
いつも、魔物を倒すときと同じです。
やがて、騎士さんはぴくりともしなくなってしまいました。
もう二度と、動きません。
「……」
アコさんは、その横たわる体に呆然と視線を向けていました。
ふと目を動かすと、カバンの中身が散乱しています。
飛び散った赤い血にまみれて、あの赤い薬もバラバラと落ちています。
がくがくと震える手で一本を拾い上げ、何度も失敗しながらも栓をあけ、一気に飲み干しました。なぜだかうまく飲めなくて、唇の端からこぼれた液体が首筋を伝って服を濡らしました。
味は、あまりしませんでした。味覚なんて、もうどうでもよかったのです。
それでもすごい刺激があったのは事実で、アコさんは涙目になりました。
心臓が跳ね上がり、胸を突き破って外に飛び出るかのようでした。
ズキズキを通り越し、ばくばくとした鼓動が耳元で鳴り響きます。
体がぶるぶると震えていましたが、それは自分の犯した罪への恐怖ではありませんでした。
ぞくぞくしました。自分の荒い息づかいに興奮しました。
ソードメイスを握りしめた手は完全に硬直してしまっていて、はじめからそういう手だったのではないかと思ったほどです。
ぼたぼたと鮮血を滴らせる凶器。
ふと、さっきこの凶器を振り下ろしたのは『何回だったろう』と思いました。

なんだか生まれ変わった気がしました。


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その真っ赤なクスリは、それはそれは素晴らしいものでした。
一度飲むと全身の血が燃えるように熱くなり、体を動かさずにはいられなくなります。
アコさんは殺すべき魔物を求めて、森をさまよいました。
もう、わずかな気配だけで位置をつかむことができます。視覚、聴覚、嗅覚が研ぎ澄まされ、どんな魔物も見逃すことはありませんでした。
敵と正面から対峙したときもそうです。相手の急所を見極め、一撃で致命傷を与えます。動きの止まった相手に、さらに何度も凶器を振り下ろします。
18回——最近は数を数えるようになりました。
嬉しくて楽しくて、しょうがありませんでした。
この辺りの魔物では、もはやアコさんに敵うものはいません。
魔物は、獲物です。
砕け散る肉片が、飛び散る鮮血が、アコさんの心を満たしてくれるのです。それはほんの一時的なもので、だからアコさんはいつも魔物の姿を探し求めていました。
まるで狂った狩人、そのものでした。
赤いクスリはこの上もなく素晴らしいものでしたが、やっぱりクスリです。
効果が切れそうになると、まず周囲の景色がすぅっと溶けていく感覚に襲われます。地面が視界から薄くなって宙に浮くような……なんだか気持ちいいな、と感じるのは一瞬のことで、すぐに頭と関節と心臓がズキズキとしてきます。その痛みはだんだん強くなってきて、全身がびくんびくんと痙攣するように引きつります。耐えられなくなると、アコさんは赤いクスリを一気に飲み干します。すぅっと体が軽くなって、痛みも震えもウソのようになくなります。あのぞくぞくした興奮が戻ってくるのです。
「ほら。私……強くなったよ」
カラになった小瓶を叩き割り、アコさんは笑いました。


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最近のアコさんは、どうもイライラしていました。
今日は特に、狩場に魔物の姿が少ない気がします。
いつもより殺す相手が少なくて、欲求不満がたまってしまったのでしょう。しかも、あんなにいっぱいあった赤いクスリがそろそろなくなりそうなのです。
「最悪。街に戻って探さなきゃ。遠くて面倒だな、ホント最悪だな……」
ぶつぶつと呟いていたアコさんは、ふと足を止めました。
なにかの気配を感じたのです。
魔物ではありません、別の……おそらく人間のものでしょう。
気になって足を運んでみると、そこには二人組の冒険者が座っていました。
剣士の少年と、アコライトの少女の組み合せです。
木陰にのんびりと座り込んで、遠足のようにお弁当を広げているではありませんか。
アコさんは、カッと頭に血が上るのを感じました。
(こんなところで、よくも気楽に……)
特に、その女の子の方が気に入りませんでした。
自分と同じアコライトのくせに。世間のことも、この狩場が危険なことも知らない、純粋無垢を絵に描いたような——
イライラは絶頂に達し、アコさんは我知らず二人の前に躍り出ました。
突然のことに、その二人は身を固くします。
そして、こんなふうに叫ぶのです。

「ば、化け物っ!?」

——。
驚いたのは、アコさんの方です。
(……私が、化け物……?)
純白だった服は、繰り返し浴びた返り血で何重にも赤く染まっていました。
腰を落としてだらりと前に垂らした腕、その手には刃こぼれしても凶悪な雰囲気を放つ鈍器が握られています。
髪はなりふり構わず伸ばし、顔の半分を覆い隠していました。その間から覗くのは、真っ赤に血走った眼。
サイアク、です。
そんな自分の姿を目前にして、こいつらは腰を抜かして震えているのです。
もう、耐えられませんでした。
アコさんは、無言で鈍器を剣士に叩きつけました。反対側の大木にまで吹き飛び、だらりと力なく倒れます。おそらく死んだでしょう、殺すつもりでしたから。
続いて涙顔の少女の首筋をつかみあげ、ぐいと顔を近づけます。
「……クスリを……」
手が、ぶるぶると震えてきました。いつもの禁断症状です。今日はとりわけ激しい気がしました。
「赤いの、ちょうだい……」

……ああ、そうだ。いいことを思いついた。
……ああ、この女の子を叩き潰したらどうだろうか。
……ああ、中身は真っ赤なんじゃないだろうか。
……ああ、ああ、なんだかぞくぞくしてきたよ。

アコさんは、にっこりと優しく笑います。
ぶるぶる震える頭をめがけて、アコさんは握りしめたソードメイスを、

——。

殺気を感じて、アコさんはぱっと振り返りました。なにか、強烈な視線を感じたのです。
そこには一人の女の人が立っていました。
そうです。あのときの、モンクさんでした。
「……ひさしぶり」
いつか、強くなったら。
一緒に旅をしたいと思っていた憧れの人です。この人みたいになりたい、と願っていた目標の人です。
突然の再会に、アコさんは嬉しくなりました。唇が弧を描きます。笑いかけたつもりでした。
「見てよ。私、強くなったよ」
気絶していた少女を突き飛ばし、アコさんは両手を広げました。
「どうして……」
モンクさんは、一瞬だけ顔を歪めました。でも、すぐにキッと顔を引き締めます。
怖い魔物を相手にした、あのときの顔でした。
「それは、強さじゃない」
そして、言い切るのです。
「それを強さというのなら。あなたは、間違っている。このまま、野放しにはできない」
アコさんは、目を丸くしました。自分では、すごく強くなったつもりでした。がんばってきたつもりでした。
それなのに——なんだか自分をまた否定された気がして。間違ってる?なにを間違ったんだろう、ただ認めて欲しかったのに——。
「じゃあ、試してみてよ」
アコさんは、ゆらりと身を屈めました。前傾姿勢の、いつでも飛びかかれる体勢です。モンクさんも、それに合わせて腰を落として構えます。
お互いに、本気でした。
アコさんはじりじりと間合いを詰めていきます。しゅー、と唇の端から息が漏れます。
隙を突くのは得意です。隙を作るのも得意です。
慎重に間合いを詰めて——アコさんは獣のように飛びかかりました。
モンクさんは、その打撃を両手で受け流そうとしました。反撃に転じる余裕はありません、そういう位置からは仕掛けていませんから。防御に徹するのみ。それで防がれてしまえば、それだけの話なのです。
でも、アコさんの一撃がそんな甘いものだと思ったら。
大間違いです。

ぼきん、と鈍い音がしました。
ソードメイスを両腕で受け止めたモンクさんですが、こちらの威力を抑えきれなかったようです。骨も折れたに違いありません。
(勝った)
アコさんは笑みを浮かべました。
止めの一撃を加えようと、ソードメイスを引き戻そうとして——
「あれ?」
体が動きませんでした。
いつのまにか、モンクさんの手が、アコさんの手首をつかんでいました。
振りほどこうと身じろぎをするのですが……どうしてでしょう、ぴくりとも動かないのです。
「あれ?あれ?」
力任せに引っ張るのですが、まるで金縛りにあったかのよう動きません。力で負けるはずがないのです、そんなに差があるはずがないのです。
目を閉じたモンクさんの気が、爆発的に膨れ上がるのを感じました。
「あれ?あれ?あれ?」
あせりました。慌てました。必死で離れようとするのですが、どうにもならないのです。
このままじゃ、攻撃ができません。
このままじゃ、防御もできません。
このままじゃ、このままじゃ。
こんなはずじゃなかったのに——

モンクさんが、カッと目を見開きました。
「阿修羅……覇凰拳ッ!」
物凄い衝撃が胴体を貫いて。
アコさんの意識は、一瞬で宙に舞い散ったのでした。


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——気付くと、アコさんは横たわっていました。
硬い地面ではなく、なんだか柔らかい感触です。
理由はすぐに分かりました、モンクさんの膝枕だったのです。霞んだ視線の先にモンクさんの顔があります。
(……?)
その顔を見て、アコさんは不思議に思いました。
それは、あの気丈に引き締まった真剣な顔でもなく。
それは、あの優しそうな微笑みでもなく。
なぜか、顔をくしゃくしゃにして、ぼたぼたと涙を流しているのです。
「……ごめんね、ごめんねぇ……ッ」
なんで謝っているのか、アコさんには分かりませんでした。
だって、強い人は泣く必要などないはずなのですから。泣かないように、頑張ってきているのですから。
『どうして泣いてるの?』と言葉をかけようとしたら、代わりに血を吐きました。口を押さえようとしたら腕が動かなくて、身じろぎしようとしたら激痛が全身を突き抜けました。
だって、生きている方が不思議なのです。
モンクさんのあの技なら、苦しむ暇もなく息の根を止められていたはずです。
どうして、助かったんだろう。どうして、助けてもらったんだろう。
「あは……負けちゃった……」
アコさんは弱々しく笑いました。やっぱり強いや、と呟きました。
でも、モンクさんは首を振りました。涙の粒が、アコさんの頬に落ちました。
「こんなはずじゃなかった……私は、こんな約束、した覚えはない……」
拳を握りしめ、モンクさんは嗚咽を漏らしました。
「私は、あなたを傷つけるために強くなったんじゃない……ッ」
モンクさんは、なんだか後悔しているみたいでした。
『他人を守る拳を目指してはずなのに。誰かを救える力を求めてきたはずなのに。どうして、こうなってしまったんだろう、』……と。
モンクさんは優しいのです。
だから、こんなことも思っているはずでした。

アコさん。あんなクスリを教えてしまって、ごめんなさい。
——私と出会ってしまって、ごめんなさい。

(それは、ちがうよ。ゼッタイ違うよ)
アコさんは、首を振りました。もう動かなかったけれど。
あのときモンクさんと出会わなければ。
今でも、必死で弱い魔物を相手にして。あのクスリの存在も知らないで武器を重そうに振り回して、無駄に疲れて意味もなく休憩して。誰かのために強くなるだなんて思いつきもしないで、たいした目標も持たずに、のんびりと……。
「……ああ……」
アコさんの口からかすれた息がもれました。なぜか涙もこぼれてきました。
(私は、強くなって……なにがしたかったんだろう)
もう、どこも痛くなくなって、アコさんはゆっくりと目を閉じました。
なんだかひさびさの休憩だな、と思って。

——ふいに、あのとき食べたサンドイッチの味を思い出したのでした。


【END】
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by moruhi | 2005-08-30 01:43 | RO小説
俺と奴とのRO事情03 〜真夏はダンサーしかないな〜

「何事にも限度があるだろう。それは他人に迷惑をかけない必要最低限の際どい防衛ラインというか制約であり契約であり盟約というか規約というか、どうでもいいが現時点で迷惑なのだ。焼くぞ」
奴はねっとりとアイスを嘗めつけながら、じっとりと肌にまとわりつく湿気の中で膝を抱えて座り込んでいた。煮え立つ火山のマグマのように絶え間なく噴き出る汗が、小川のせせらぎのようにアゴを伝い落ち、岩肌を穿つ地底湖の雫のように大地を潤していた。
そんな状況に耐えられない奴は、照りつける太陽に向かって文句を言い出した。
「見てみろ、ご機嫌な顔しやがって。オレの不快指数を指折り数えて推し測れ。法的に訴えて黒点じみたホクロを大量に焼きゴテで貼付してやるから覚悟するがいい」
ひどく自分勝手な上に横暴で意味不明なことばかり口にするので、俺は『夏だしな』とため息をつきながら、やはりアイスを食っていた。
人の密集したプロンテラの街中は特に蒸し暑く、木陰に潜り込んでも十分な涼を取るなど不可能だ。奴とベンチで隣り合わせなのも、特筆すべき問題点でもある。
「よく聞け。オレはマジシャンだ。いかなるときも正装のごとく厚手のローブを着込み、魔力と知力の極地を目指して日々汗を流している。だからといって今日は流しすぎだろう、涙まで出るほどだ。たまには脱いでもいいだろうという悪魔の囁きが、淫魔サキュバスのように甘く切なくオレの耳元で吐息があッふぅん、誘惑するのだ」
「じゃあ脱げよ。お前が一日くらいローブを脱いだところで誰も咎めやしないし気にも留めないだろうさ」
パタパタと掌でわずかな風を送る俺が進言してやるのだが、ポリシーが許さないだとか人前で肌を露出させるのは卑猥だとか面倒な事をぐだぐだと360字程度で述べ、奴は頑固にもローブを脱がないのだ。

そうするうちに、事件は起こった。
しゃらしゃらと軽快な金属音を立てて、ダンサーさんが通り過ぎたのだ。
華美な装飾を縫いつけた薄手の衣が軽やかな足取りとともにゴージャスに揺れ、それはまるで風鈴のようにはかなくも涼しげな音色。
荒んだ心に一服の清涼剤のごとく浸透し、俺は束の間の安息を感じ——
「お待ちなさい、そこのお嬢さん」
奴がダンサーさんの前に進み出た。
「不条理だと思いませんか。この蒸し暑い空気の中、僕はこのように暑苦しいローブを着込んでいる。それ反してあなたはどうだ、そんな必要最低限の際どい防衛ラインを張りながらも、淫魔サキュバスのごとく挑発的に腰を揺らす歩行方法に加え相乗効果で太ももとか谷間とかあッふぅん、我慢にならないので僕も脱いでいいですか」
ばさりとローブをはためかした奴は、顔に痛烈な手形をつけて帰還した。
「マジシャンとして知識の探求をしていると、常々世の不条理を感じるのだがどうだろうか」
「探求の仕方が悪いと思うんだがどうだろうか」
俺は肩を怒らせて去りゆくダンサーさんの背中をただ見送るだけだったが、奴のハートには何か別の感情が芽生えたらしい。
ゆらりと立ち上がる奴の目には、確たる信念の光が映っていた。
「決めたぞ。オレはマジシャンの証たるローブを外してやる」
「まぁ、いいんじゃないか」
「そして『サイト』の魔法を唱えてやる。頭上でぐるぐると旋回する火の玉と共に、半裸でプロンテラ市街を走り抜けてやるのだ!」
「待て。それは人の道までも外している」
「止めるな。これは新たな世界の幕開けなのだ」
奴はふいに立ち上がり、肩越しに俺の方に顔を向けた。青空をバックに微笑み、『さぁ、一緒に冒険にでかけよう』と優しく手を差し伸べるのだ——
「断る」
「貴様。アイスを分かち合った友情を忘れたのか。オレの友達リストから削除してやる!」
「プロンテラ警備兵のブラックリストに載るよりマシだ」
「ふん、既存勢力にシッポを振りつつ甘い汁を貪りすする政府の犬め。これからは解散とか革命とかがブームなのだ。大いなる時代の奔流よ、オレの勇姿を目に焼き付て歴史に刻め!」
ばさりとローブを脱ぎ捨て、奴は気合いと希望を込めて火の玉を生み出した。いつもより多く回っている気がした。
熱気を帯び、体にはほとんど衣類を纏わず、奴は新たな時代とやらに向かって駆けていく。『うんばー!』と原住民じみた奇声をあげて、人込みの真っ只中に潜り込んでいくのだ。
「……あれも青春の1ページとか若気の至りとかで済むんだろうか」
ぼとりと足元に置き去りにされたアイスが見る見るうちに泥沼化していくのを見下ろしつつ、俺は嘆息するのだった。



——間もなくして奴は、見るも無惨な姿になって街の外に捨てられていた。
話によると、露店商人のひしめく街中で奇声をあげながら情熱のファイヤーダンスを繰り広げた奴は、枝テロリストどころか新種のモンスターと間違えられ、夏のバカンスを露店ショッピングで過ごしていた槍騎士集団に360度フル回転で突かれたらしい。降り注ぐピアースの雨がすべて被弾、奴の体は折って畳んだ紙飛行機のごとく舞い散ったようだ。
「……笑えよ」
奴は大の字に倒れたまま、ふっと自虐的に笑った。
「どうだ、この世間の冷たい仕打ち。吹き飛ぶのは慣れっこだが、いつもより多く炎天下を踊り狂った気がするぞ。時代の最先端には常に誹謗中傷がつきまとうが、いくらなんでもこれはヤリすぎだろうというか槍キライこわいやめてください」
なにか変なトラウマが残暑のごとく残っているようだが、自業自得なので俺はコメントを控えた。
そのとき、ふと視線を感じた。
見ると、近くの木陰にさっきのダンサーさんが立っていた。うつむいた視線は倒れた奴に注がれているのだが、軽蔑しているわけでもなさそうなのだ。
「あなたの踊り、見ていたわ……」
ダンサーさんは少し視線を落としたまま、告白し始めるのだ。
「実は私、踊りに対してスランプに陥っていたの。長年やってるとあるのね、思うように踊れない苦悩が。でも、あなたのさっきの踊り。恥も外聞も捨てて感情の揺れ動くままに自己を表現する信念と情熱……忘れていた青春のあのころが思い出せるようだったの……」
その言葉を聞くと、奴はリザレクションで復活したかのように立ち上がり、勢いに任せて『あれはあなたのために踊ったのです』とまるで口からデマカセを紳士的な半裸で微笑んだ。
「はじめて会ったときから僕は気付いていたのです、その瞳の奥に映る悩みを。そう、ギリギリラインで踏みとどまってしまっている、あなたのクランプ……って毒ネズミでしたっけ、ああ、スランプね。あなたは世間からの目、すなわち評価を気にするあまり、身がすくんでしまっているのです。あとほんの少し、踏み出すことができれば。僕はその一歩踏み出す勇気を、身をもって証明したかったのです」
「まぁ……」
ダンサーさんは顔を赤らめ、奴の顔を正面から見つめた。
いかにも夏のメロドラマのような雰囲気に、俺は他人事ながらも声援を送った。
——今だ、ハイセンスな決め台詞でダンサーさんを落とすのだ!
奴の脳内は、今や火の玉よりもフル回転しているはずだ。相手はダンサーだ、『シャル・ウィ・一緒に踊りませんか』でもいいだろう、『軽やかなステップで共に歩みませんか』でも『僕が踏み出す勇気をあげるよ』でも充分だ。
千載一遇のチャンスを逃すほど、奴だって馬鹿ではないはず。
そしてついに、奴はうしろを向き、肩越しにダンサーさんに顔を向けた。夕日をバックに優しく微笑み、『軽やかに踏み外してみませんか、人の道を!』と紳士的に手を差し伸べるのだ——
「断る」
ハエ羽でテレポートしていったダンサーさんの跡地を、奴は呆然と見つめていた。
「……やはり人道って大事だな」
ぽんと手を置いた奴の肩は、小刻みに震えていた。武者震いではあるまい。
「泣いているのか」
「ふん。これは汗のように不条理な物体だ。今日は身も心もアツイから流しすぎだぜ」
奴の瞳の奥底からは吹きこぼれた鍋のように絶え間なく涙が溢れ、一気にやつれたアゴの骨格を伝い落ちた先の地面は轟音唸る滝壺のようだった。
「今日のことは、真夏のメモリーとして心に刻んでおくがいい」
「ふん。360字程度でまとめてやるさ……」
そして奴は、再び太陽に文句を言い出した。
『真夏の青春1ページ』、1個獲得。
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by moruhi | 2005-08-10 02:29 | RO小説
【RO短編】〜Lose Lief〜(初出:2004.5.24)
※心に余裕があるヒトへ。



 ——たいてい、気になったときには足が止まる。

 街を歩いていると、俺は妙な雰囲気に気付いた。
 そこは首都プロンテラの中央通り。花やらぬいぐるみやらで派手に飾り付けたカートを引いて、商人たちが思い思いの場所を陣取り、仕入れた商品を並べている。商人が並んでいると表現してもいいくらいだ。見慣れた光景でもある。
 そんなふうに露店が賑わう中、そこだけが浮いていた。
 なんとなく避けられてる空間。

 なにかと思えば。
 座り込んでいるのは、商人の格好をした少女だった。

 石畳に膝を抱えて、うつむいている。それじゃ商売にならないだろう。やる気があるのかないのか。客足が遠のくのも無理はない。
 立て札を見た。
 幸せを呼ぶ『四葉のクローバー』と銘打って、金額も書かれていた。
(ずいぶんと安いな)
 相場に精通しているわけではないが、それでも直感的にそう感じる値段だ。

 四葉のクローバー。
 一般人なら誰もが知っている、幸運の象徴。これを肌身離さず持ってる奴を、俺は何人か知っていた。『まぁ、お守りみたいなもんだよ』という軽い気持ちらしいが。

 それにしても、珍しいものには変わりない。この値段だったら、買い手はいくらでもつくだろう。物好きな観光客、そして百戦錬磨の卸売商人たちが目をつけないはずがない。
 気になって、展示されたカートの中をちらりと見て——

 俺はため息をついた。
 3枚しか、葉がなかった。

(詐欺か)
 そう思った。
 他にもそう感じてる奴等もいるようで、ひそひそと会話を交わしているのが耳に届いた。
『あれ詐欺だよな』『通報するか』『にしても、せせっこましいよな』『買う奴なんていねーよ、馬鹿じゃねぇの』とか。

 ……俺だってそう思う。
 同じクローバーとはいえ、これでは価値がない。それこそ道端にいくらでも生えている。金を払って入手するような酔狂な奴もいないだろう。
 たしかに売ってるもの自体は小さなもので、些細なことだ。しかし、ああいうことを平気でするところから心が歪んでいくんだろう。手を染めてしまった時点で、すでに歪んでいるのかもしれない。

(かわいそうにな)
 他人事のように心の中で呟きながら立ち去ろうと——
 しかし、なぜか俺の足を止まったままだった。

「ちょっと」
 自分でも酔狂なことをしていると思った。
 声をかけると、その少女はのろのろと顔をあげた。生気のない顔だった。
「これ、一個もらえるかな?」
 そう言うと、少女の表情が変化した。
 パッと笑顔になったわけでもない。
『しめしめ、馬鹿な客がきたぞ』とほくそ笑んだわけでもない。
 おどおどと、落ち着きがなく目をさまよわせている。唇がかすかに動いた。

「……あの、こちらの値段でよろしいですか?」

「ああ、うん。いいと思ったから買うんだ」
 できるだけ騙されてるいい人の顔をして、俺は財布から硬貨を差し出した。
 少女は商品である葉をおずおずと差し伸べ、その分の金額を受け取る。

「ありがとうございました」

 そう、抑揚もなく告げられる。なにか戸惑いの色を残した、釈然としない顔で。
 俺は立ち去ろうと背を向けて——再び立ち止まることになった。
 ……釈然としないのは、こっちの方だ。

「あのさ」
 買ったばかりのクローバーを指でつまんで、俺は少し厳しめの口調で言った。
「これは、四葉じゃないよな」

 少女は小さく息を飲んで黙りこくった。

「あまり口うるさくは言いたくないんだけれど。看板には、四葉のクローバーって書いてある。でも、実際に売ってる葉には3枚しかない。とんだ欠陥商品だ。道端に普通に生えてるつまらない葉っぱだ、とても幸せを運んでくれそうにないな。……これって詐欺じゃないか?」

「……わかってます」
 素直に頷く。
 少なからず弁明してくるかと思ったので、逆に言葉に詰まった。そこまで認めた上で意図的に詐欺に走るとは……重症なんだろうか。見た目と裏腹に肝が据わってるのしれない。いい座り方ではない、根っからの悪だ。

 だったら。

 ……そんな悲しい表情、しないでくれ。

「このクローバー、私が摘んできたんです」
 少女が、急に語り出した。ぼそぼそと、独り言のように。
 誰に向かってしゃべっているのか分からなかった。少なくとも、目の前にいる俺ではなかった。どこか、意識が遠くにいってしまっていた。
「街から出て野原に出て、クローバーを探しました。葉が、綺麗に4枚そろってるものを。見つければ、幸せになれると思って。……それは、私は商人です。売ってお金にしようと考えてました。私みたいな貧乏商人にはそんな草でも充分に収入になるんですよ、だから必死で探しました。お金が手に入れば幸せです、だから四葉が見つかれば幸せです。四葉は幸せを運んでくれるんです。そんなのみんな知ってて、もちろん私も知ってて、だから、そうですね、私、幸せが」
 少女は一度言葉を切って、言い直した。

「私、幸せになりたかったんです」

 それは、誰だって思うことだろう。もちろん、俺だってそうだ。
 今より少しでも幸せになりたいから歩いてるんだ。仮にも剣士である俺がこうやってうろうろ露店を巡っているのだって、自分に合った手頃な武器を物色したかったからだ。今より強くなるのは、充分、幸せに近づいてる感じだろう?
 ああそうだ、俺は忙しいんだ。
 こんな子にちょっかいかけてる場合じゃないだろうに——。

「でもね。でもね、でもね——」
 少女の顔が急に歪んだ。それを隠すように両手で顔を覆って、頭を振る。
「私には見つけられなかった。完璧なものなんて見あたらなかった。
 見てください、ここに並んでいるのは葉が一枚欠けてるんです。
 なにかが足りない『この子たち』。私は気付いてしまったんです。
 四葉じゃなくても、幸せじゃなくても必死に生きてたんです。
 なんだか——私みたいで、欠けてる私みたいで——なんだか放っておけなかった。
 気付いたらカートいっぱいに摘み集めてた。冷静になってからどうしようかと考えた、自分でもよくわからないことをしてうろたえた。
 ……だから、こうやって露店に並べてみたんです。私は商人です、他に方法が思いつかなかった。少しでも気付いてほしくて認めてほしくて。
 でもね、でも、届くのは冷たい視線と暗い陰口だけ——当然ですよね。
 そんなの分かってるんです、分かってやってるんですよ、
 詐欺ですよね犯罪ですよね、
 分かってて人を騙すのはよくないですよね、
 それでもこういうやり方しか選択できなかったんです、
 きっと私はおかしくなってしまったんです、
 大事なことが足りなくなってしまったんです、
 なにかが欠けてしまったんです、
 ねぇ——」

 少女は顔をあげた。
 涙が伝った頬。糸の切れた操り人形みたいな顔で、
 それでもハッキリと俺に向かって、こう言った。

「欠けてちゃ、誰も幸せにできないんですか?」

 葉っぱの足りないクローバーを握ったまま、俺はなにも言えなくなってしまった。




 その日のうちに、仲間と酒を飲む機会があった。
 俺はポケットから三つの葉のついた草を摘み上げて、話のネタを振った。
『なぁ、これいくらだと思うよ?』と切り出したら、
『なにいってんだ、ただの草だろうが。売る奴いるのかよ』と反応が返ってきた。
 実は露店で四葉と同じくらいの値段で買ってしまったと続けたら、当然のこと、『馬鹿じゃねーの、そんなの間違って買う奴いねーよ。おめぇくらいだ』と笑われた。

『いや、わかってて買ったんだ』と説明したら、
『ますます馬鹿だ。死んでしまえ』と爆笑された。

 俺も『馬鹿だよな、そうだよな、俺おかしいよな』と小さく笑った。

 死んでしまえ、とも呟いた。





 ふと、あの少女に会いたくなった。

 そう思いついたのは、例の葉っぱがすっかりしおれて茶色くなってしまった頃だった。
 ふらりと商店街に足を運んだのは、金がある程度たまったのでまた手頃な武器で物色したかった、という理由だったのだが。
 あの子が膝を抱えていた石畳には別の商人が座り込み、やる気がなさそうにタバコをふかしていた。『今日はどうも売れねぇな、場所かえるか』と隣の商人と談笑している。

 商人の女の子を知らないか、と尋ねたら『見ての通り、俺じゃねぇ』と笑われた。別の奴に聞いたら、『この街に何人の商人がいると思ってんだよ』とあしらわれた。

 それもそうだ。
 これだけ広い世界、名前も知らない人物を捜し当てるなんて無理な話だ。たまたま知り合って仲良く会話を交わした奴も、少し時間をたてばもう忘れてしまっている。そんなもんだ。
 それこそ、街で見かけた駆け出しの商人なんて数え上げたらキリがない。街の片隅で、ひっそりと三葉のクローバーを売っていた少女なんて——

「ああ、あの子ね」
 思い当たった点があったらしく、その鍛冶屋の女性は頷いた。
「しばらく、この辺で商売してたよ。や、あれを商売と呼んだらうちらの仕事は形無しだけどね、うん。懲りなく同じモノを同じ金額で並べててさ……なにアンタ、あの子の知り合い?」
 ちがうと首を振ったら、少し声を潜めて言った。

「どうもさ。……死んじゃったらしいよ、あの子」

 ……。
 俺は別に驚かなかった。

 ——なんにもない草っ原でバッタリ倒れてたらしくてさ。魔物に襲われた形跡があったわけでもなくて、どうも……手に握ったナイフであれだね、やっちゃった感じだね。発見したのが駆け出しの冒険者でさ、血相変えて騎士団に飛び込んでたよ。いや、魔物に殺される奴なんて日常茶飯事だけどさ、ああいうケースだと精神的にキツイっていうかなんていうか。南無〜だなんて花も添えられないだろ、痛々しくてさ——

 どことなく軽い口調の女性に礼を告げ、俺はまた商店街をぶらぶらと歩いた。なんの目的でここにいるのか、忘れてしまっていた。威勢のいい客引きの声が、ぼんやりと耳を通り過ぎていく。
 ちょいと剣士のお兄さん、精錬した短剣はいらないかい。え、もう愛用の剣があるからいらない? いやいや、武器一本だけで世を渡るってのも酷だよ、敵に懐深くに踏み込まれたときの護身用にでもさ、どうだい?
 鋭利に光る短剣を手にとって眺め、俺はその切れ味よりも別のことを考えていた。

 ……あの子は、どこかおかしかったんだろうか。
 結末がどうあれ、この街にあの子の露店はなくなった。
 ここは思い思いに商売ができる自由な街だ。露店がひとつ消えたのなんて、そんなの些細なことだ。
 そこで、あの子はなにをしたかったんだろう。なにを思っていたんだろう。
 摘み集めた欠陥品で、自分を表現したかったんだろうか。
 無理をしてまで?
 泣きそうになるまで?
 ……死ぬほどまで。

 周りから見ればただの詐欺露店だ。
 あれは……不器用な心の叫びだったんだろうか。
『助けて』のメッセージだったんだろうか。
 俺が足を止めたのは、なにか漠然とした引っかかりを感じたからにすぎない。
 あそこでちゃんと気付くべきだったんだろうか。
『君の欠けた心を埋めてやる』
 なんて、ロマンチックでキザな台詞でも吐けばよかったんだろうか。

 ……無理だろ。

 結局、彼女は欠けたまま。
 幸せになれないまま、散ってしまった。
 一枚足りないとかそういう問題でなく、ひとつ残らず、全部だ。

「やっぱ、詐欺だったんだよな」

 そうとしか——欠けてしまった俺には呟けなかった。



【END】 (初出:2004.5.24)
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by moruhi | 2005-06-08 13:04 | RO小説
俺と奴とのRO事情02 〜ぽりんしかないな〜

いつもどこでも同じようなことだったが、俺たちは戦い慣れた狩場でがむしゃらに剣を振るい、部屋の隅で膝を抱えてぶつぶつと呟くように魔法を唱え、激闘の最中を踊ったり跳ねたり必殺技を繰り出して見せ場を作っても誰も見てる奴いないだろうと自虐的な満足感に浸りつつも、なにか貴重なアイテムが落ちてこないものだろうか、もし落ちてきたらアレもコレもソレもドレイも買い占めて贅沢三昧でモテモテだと、棚からボタモチな皮算用をしていたのだが、いきなり奴が左斜め45度後方にすっ飛んだ。
「ぬぅ」
手痛い打撃を食らった奴は、呻きながら杖をついて立ち上がった。
「気をつけろ。このオレの鍛え抜かれたボディをまるで折って畳んだ紙飛行機のように天高く吹き飛ばしやがった。並大抵の腕力ではない、まさに神クラスだ」
「紙装甲の貴様の台詞ではないな」
俺は冷静に剣を構え、目の前の魔物と対峙した。まだ退治はしていない。
すごく強そうな魔物だった。俺的すごいランキングの王座に君臨しているといってもいい。こいつを倒したら英雄として首都プロンテラに凱旋を強行する。
街中を覆い尽くす拍手喝采、花束とギャルの接吻が飛び交う中、俺はお立ち台で鮮烈なヒーローインタビューを繰り出す。「あんなやつ、ポリンだったさ……」と右斜め45度のカメラ目線で髪をかき上げ、古今東西東奔西走、乙女のハートを愛のキューピットよろしくダブルストレイフィングで撃ち抜くのだ。
「しかしながら、こいつはまったくもって相手が悪い。さすがの俺も武者震いを遙かに超越した悪寒がやめられない止まらない。あの曲線美を極めた体にして、あの面妖な挙動。こいつはまるで——」
ポリンだった。
暖かな日差しが振り注ぐ中、ピンクの球体がふよふよと蠢いていた。緑の草原との色彩コントラストがメルヘンチック級の穏やかな光景とほざく連中も存在するが、俺たちには恐怖の対象でしかない。
「絶えず脈打つ体から放たれる針のように研ぎ澄まされた殺気、極彩色ピンクの悪しき思念体。勝てるのか、こいつに……」
じりじりと間合いを詰める気配に気付いたのか、ポリンが振り返った。
底の見えない禍々しい黒い眼に見据えられ、背筋がフロストダイバー。
腰が引けたままなのも気が引けたので、俺は精一杯の虚勢で啖呵を切った。万が一の事故に備えて、背後にタンカも用意しておく。
「ここで遭ったも何かの縁、まさに地獄の一丁目。弾けるその身を覚悟しろ、ピンクの飛沫を撒き散らし、おとなしくゼロピーをよこすがいい!」
天を突くがごとく剣を振りかぶった、そのとき。
「なにやってるんですか!」
 突如、制止の声が振り落とされた。凛とした声に、俺たちは身をすくめてきょときょとと周囲を見回して「何者だ!」と悪役のように強気に振る舞った。
登場したのは、アコライトの少女だった。
「私のペットになにしようとしてたんですか!」
その少女はポリンに駆け寄り、ぎゅっと愛おしげに抱きしめた。
人間やめてポリンになりたいと思ったのは、今日がはじめてではない。
「いや、いじめるだなんて。それは大いなる誤解さ」
奴が紳士的に前に進み出た。
「オレが落としたゼロピーを、その子がうっかり誤って食べてしまってね。しっかり謝って早急に返していただきたく、パワフルにシャッフルしてみたかっただけなんだ」
アコさんと奴の距離が5セルほど開いた。
「そんな邪険にしなくてもいいじゃないか。ここで会ったもなにかの縁。まさに天国への階段一段目。本能と煩悩に翻弄されて激烈ハッピーにならないか」
奴の投げキッスはニューマの霧で防がれた。
完全に拒絶されてふて腐れた奴を尻目に、俺は素朴な疑問を発した。
「そのピンクの物体は君のペットといったな。普段はどんなものを食べるんだい」
「ゼロピーとか食べます」
「そうだろう。あれが好物らしいからな。俺は常々疑問に思っていたのだが、あのいぶし銀の固形物、本当にうまいのか」
奴が左斜め後方から割り込んできた。
「右と同じく、オレもそれが不可解な点だった。オレはマジシャンだ、世界の謎を解明するのが使命だと言わんばかりに道端に落ちていたゼロピーを口に含み、爽やかにはにかみながらも官能的に甘噛み、唾液をまぶして何度も何度も反芻しつつも、ついには吐き出した。そう、こいつはオレに扱えるレベルではなかったのだ。無惨にも地面に打ち棄てられたゼロピー、それを突然横沸きしたそのポリンが……食ったんだ! さもうまそうに! むしゃむしゃと!」
アコさんは真っ青になって、ポリンの体をシャッフルした。吐かせそうとしているらしい。
「君、その行動は自分の所有するペットに対して酷い仕打ちじゃないかい。飼い主の風上にも置けないぜ、もしや飼い主に似てそういう趣味かい。マゾか何かか、俺はマジシャンだが」
奴が冷酷にも指摘したので、アコさんは泣きそうな顔で逃げ出した。
そして近くにいたブラックスミスの女性に抱きついて泣きつくのだ。
「助けてお姉さま! あの人たち変態です!」
そう言ってポリン級の胸に顔を埋める少女。男やめてアコさんになりたい。
事情を聞いたブラスミさんは肩を大きく回して凶悪そうな鈍器を取り出した。鈍器片手に仲良しこよしの対談を続行するのは無理がある。友好的な雰囲気ではなかった。アドレナリンその他もろもろの物質が大量に分泌して体内を駆けめぐってる感じだ。
俺はといえば体中の汗腺から冷や汗を吹き出しつつ、冷静至極、剣の柄に手をかけた。
「女子供に手をあげるのは俺の流儀に反するのだが。やむをえまい、どちらが正義かをわからせてやろう」
歩み寄るブラスミさんは、手持ち無沙汰に手頃な岩をハンマーで打ち砕いた。
「ふ……繰り返し宣言するが、女子供相手に手をあげるのは俺の流儀ではない」
思いっきり両手をあげて降参したのだが、俺のポーズを戦闘体勢の一種と思っているのか、ブラスミさんの殺気が衰えることはなかった。
もうダメ絶体絶命のピンチだと覚悟を決めた瞬間、俺の全身が燃えさかるように熱くなった。
火事場というか死に際の馬鹿力でも自動発動したのだろうか。アドレナリンが全身を駆けめぐり、血液が沸騰してコーヒーを淹れられるかと思うほどだ。俺の内部で何かが覚醒したのだとマジで確信したのだが、実はというと、奴が左斜め45度後方からファイヤーボルトを食らわせてきたのだ。マジの確信犯だ。
「なにをする貴様。悩ましげに悶えるくらい熱いぞ」
「冥土の土産に教えてやろう。輝かしい戦い歴史も、語り継ぐ者たちがいなければ無となる。オレは貴様の尊い犠牲を胸のポッケにこっそりしまい込んだまま永久に封印し、ゆりかごから墓場まで安穏の生活を満喫してやるのだ……!」
「なにぃ。裏切ったな貴様。くそぅ、体が焦げる。このままでは真っ黒い炭になる。黒炭だ。そんなのブラックスミスの方が適任じゃないのか。あまりにも不条理だ」
 煙をあげて地面に倒れ伏す俺をせせら笑いつつ、奴は女性陣に対して両手を開き、人畜無害のナイスガイとばかりに爽やかなスマイルを浮かべた。
「オレは君たちの味方さ。見よ、大いなる悪の権化は紅蓮の炎で焼き尽くされた。正義の使徒にしてか弱きレディ達よ、安穏の地は我が手中にあるといっても過言ではない。さぁ、遠慮せずオレの胸に飛び込んでくるがいい!」
お言葉に甘えて痛烈な鈍器ラッシュが奴の体に降り注ぎ、キラキラと輝かしい戦績と鮮血を吹き飛ばしながら、奴は青空をバックに錐揉み飛行でスパイラルピアースのごとく地面に突き刺さったのだった。



ぼろぼろになって街の外に放り出された俺たちは、仰向けになって倒れつつ、沈みゆく太陽を見つめてネタも煮詰まっていた。夕日に照らされ真っ赤っかに染まる以上に血染めな俺たち。口を動かす気力もなかったので黙っていたのだが、そのとき、何者かの禍々しい気配が近づいてきた。
軋む首を無理矢理ねじってみると、そこにはポリンがいた。
「なにを見ている。俺たちの姿がそんなに滑稽か」
さっきアコさんと一緒にいたポリンと似ていた。同一の個体かもしれないが、どれがどうハンサムだとか見分けが付くわけがない。
「おかしいか。笑えよ。腹皮が裏側によじれるほどにな。そうか、腹が減ってるんだろう。今ならこのとおり無防備だ、無様に抵抗する気力もない。遠慮なく食すがいいさ……食えよ、さぁ食えよ! むしゃむしゃとむさぼるがいいさ!」
その懇願をまったく無視して、ポリンはなにかを吐き出した。
ゼロピーだった。
「……。くれるのか」
ポリンは黙って去っていった。『プレゼント・フォーユー』……そう語りかける後ろ姿が、あまりにもダンディだった。
銀色に光る物体を間に挟み、俺たちはふっと悟った笑みを浮かべた。人外ポリンに同情され、人間やめたくなってきた。が、せっかくの贈り物を無視するのも気が引けたので、奴に押し付けることにした。
「貴様、食ってみろよ。むしゃむしゃとうまそうに食ってみろよ」
「何をほざく。オレはすでに勇猛果敢にも唾液をブレンドした輝かしい経歴がある。まだ未経験のお前に両手放しで譲るのが永遠のフレンドではないか」
「一度の経験に味を占め、まだ同じ過ちを繰り返す気にはならないか」
「間違いなのか、罪なのか。ゼロピー食うのは犯罪か」
「歴史は時として残酷だ。遠い未来の我々から見れば賞賛すべき行為に対し、異端とばかりに弾圧する世論が勃発しうる。つまり貴様の行いは一見して愚行であるが、わずか数年のうちに永久に語られる英雄となろう」
「そいつはいい、オレ最高。まさに一世風靡の電光石火だ。オレは夜空にまたたく星となり、夜な夜な窓際のレディにきらびやかなウィンクを繰り出す。そして、うっとりしっとりと頬を染める淑女の皆様のリクエストにお応えして、すぐさま一撃必殺の流れ星となるのだ。闇を切り裂く一条の光は乙女の心で鮮烈デビューを果たし、生涯を通して忘却不可能な一大シーンとなることだろう。今この一瞬から、オレの腐れた未来は180度の変貌を遂げるのだ!」
自己のフューチャーに光明を見出した奴は、武者震いで小刻みに揺れる指で巧妙にゼロピーをつまみあげた。そのまま飲み込むと思ったら、なにを思い直したか、ひょいと胸のポッケにしまい込んでいた。目にもとまらぬ手品師のような早業だった。ただのマジシャンのくせに生意気だ。
「ふっ。血と涙と唾液まみれの戦歴を一瞬で消化するなど、まさしく歴史に対する愚弄だ。この銀色固形物はオレのハートを熱くするメモリーの欠片として、いずれ太陽のように放射線を四方八方に放射することだろう。オレの未来は明日に架ける虹の橋、まさに夢色スペクタルさ」
「腰抜けめ。デンジャラスな状況をうまく誤魔化したようにしか見えん」
「なにをいう。たまたま夢と希望で胸と腹がいっぱいだっただけだ」
そう強がる奴の腹の虫が、一匹オオカミの鳴き声のように情けなく空に響いた。
「……。世間には黙っててやる。食えよ。遠慮なく食えよ」
俺はつぶやき、ふっと右斜め45度のダンディを演じた。
奴が本当にゼロピーを消化したのかは、俺の知るところではなかった……。
思い出にまみれたゼロピー、1個獲得。





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by moruhi | 2005-05-04 14:28 | RO小説
俺と奴とのRO事情01 〜奴の靴には穴がある〜

毎度のことくだらない展開なのだが、ふとした拍子に「今いちばん欲しいものはなにか」という話になった。波瀾万丈な人生模様をふんだんに盛り込みつつ、酸いも甘いも赤裸々に盛り上がる予定だったが、奴は「新しいシューズがほしい」の一言で場の展開に終止符を打った。
「だったら首都プロンテラにでもいくか。あそこの密集している露店なら手頃な中古品が見つかるだろう」
そんな流れで、俺たちは滞在している田舎から少し遠出することになった。
道端を歩いていたアコライトに声をかけると同時に金をかけて、俺は首都まで一気にワープポータルで転送してもらうことにした。足腰に無駄な負担はかけない主義だ。
奴はといえば美人のプリーストを口説き落とし、無料でポタを出してもらっていた。奴はそういう足腰の使い方をする。


闇ポタされた奴と一時間後に合流し、俺たちは並んで大通りを歩き始めた。
「貴様はなぜ新しい靴が欲しいのだ」
素朴な問いかけをすると、奴は無言で足元を指し示した。それを見て、さしもの俺も絶句した。
「なんだと。それはこの世にあるまじき不正品か。スロットがひとつ多いぞ」
「ちがう。ボロすぎて穴があいただけだ」
 たしかにある意味レアなレベルでボロかった。アレなレベルで臭いそうでもある。
「雨の日も風の日も、砂塵舞い散る砂漠はもちろん、しっとりねっとり陰湿なダンジョンの奥底でも、俺はこの靴と一緒に戦い抜いてきた。共に笑い、時には泣き。まさにかけがえのないマイフレンド、汚れなき盟友。しかし、そろそろ無理が祟って限界が近い。盟友のくせに汚れもひどい。別れるのはつらいが、戦友にセンキューの気持ちで、おニューの靴に鞍替えすることにしよう」
 心苦しそうに顔を歪めながら、奴はひさびさのショッピングにうきうき気分だった。
 そんな奴が、ふと足と同時に目をとめた。
「ほう。この靴、なかなかいいじゃないか。おっさん、これはいくらだい」
「おにいちゃんと呼べ」
 それは無理な相談だ。
 奴はその頑固そうな中年商人と交渉を開始し、ほんのわずかでいいから負けてくれと食い下がった。腐犬ベリットのように噛み付く勢いだ。この値札には0が多すぎやしないか、なにかの間違いか詐欺だろうだから1つと言わず2つほど削ってくれ消してくれ滅してしまえと、まるでダダをこねる子供のように屁理屈をこねた。その気迫に押され、商人はしぶしぶ折れつつも、ひとつの安易な条件を提示した。
「ジャンケンに勝ったら安くしてやろう」
「ふむ。いいだろう、のぞむところだ。俺の鉄拳アングリー、飢えた獣のハングリー! 現世の怒りと来世の希望を込めた完全無欠にして悠久不敗の正義を一身に受けるがいい!」
 奴は負けたので、値札のままの金額で購入することになった。
 それでもお得感満載の商品だ。奴はさっそく足に通し、軽く三回転半ジャンプを繰り出した。白鳥のように美しく跳躍し、着地はさながら醜いアヒル。
「ふむ…このフィット感、やはり俺が目をつけたことだけあるな。実に満足だ」
 ご機嫌でスキップを繰り出す奴から少し離れて、俺はうしろから声をかける。
「おい、そんなはしゃぐと痛い目に遭うぞ。大方の予想、そのうち転ぶ」
「転ばぬよ。俺はこう見えてもマジシャンだぜ。転ばぬ先のS4ロッドさ。俺の人生は順風満帆だ」
 靴一足でそんなに人生が変わるものかと俺は鼻で笑い飛ばしたが、それはそうと、奴の手にはまだ以前の靴がぶらさがっていた。あれはどうするのか、得意のファイヤーボルトで焼却してしまうつもりか。
 そう思っていると、奴がパチンと指をはじいた。
「うむ、この古い靴の処分を思いついたぞ。せっかくの大都市に来たんだ、ここは露店を出して売ってみようじゃないか。今となっては古びたものだか、それでも欲しいという奇特な人物が存在するかもしれない。新しい買い手がつけば、この靴もさぞ喜ぶことだろう」
 廃棄した方が世のためになる気もしたが、奴はさっさと出店の準備を始めていた。商人でもないのに手慣れたものだ。
 道端に座り込み、奴は声を張り上げる。
「いらっしゃい。出所は詳しく説明できないが、とにかく靴だよ。安いよ」
 高かったら詐欺だなと思いながら隣で座っていると、俺たちの前に立った人物がいた。
 プロンテラ警備兵が不審人物を取り締まりにきたのかと思ったが、それはアコライトの少女だった。
「あの、商品を見せていただいてもよろしいですか?」
 奇跡的に客だった。
 奴は諸手を打たんばかりの勢いで靴を差し出し、あれこれとアピールを始めた。ぼろいなどとは口が裂けても言えない。歯が浮くような美辞麗句、過剰広告もいいところだ。
 アコさんはそれを真剣にふんふんと聞いていた。そいつの言うことを信じちゃいけないぜ、と警告しようと思ったが……外見からしてあのボロだ、どうせ最後には愛想よく『また今度の機会にします』ってことになるに違いない。
 そして最後に、彼女はにっこりと笑った。
「じゃあ、この靴いただきます」 
 まるで天使の微笑みだった。
 俺の視線はその笑顔に釘付けだったが、心が貧乏な奴は金の方に夢中だった。
 手もみをしながら代金を受け取る。
「まいど。大事にしてくれよな」
 奴はひらひらと手を振り、しめしめと金を勘定していた。
「いや、予想外だが儲けたぜ。まさか売れるとは。俺のファンかもしれない」
 奴の戯言を聞き流し、俺はぼんやりとアコさんが立ち去った街並みを眺めていた。
 そして、ふと、あることに気付いてしまった。
「おい。あの靴、ちゃんと洗濯してあるんだろうな」
「そんな暇があるか。さっき履き替えたところだろう。脱ぎたてほやほやだ」
「いかん。貴様、考えてもみろ。あの靴をあの子が履くんだぞ。貴様の臭いが染みついた汚らわしいボロ靴を。これが黙っていられるか、想像するに耐え難い」
「だったら貴様が買えばよかったじゃないか。親友のよしみで大サービスしてやったのに」
「そんな金があるか。そもそも、あんな靴を世に出すのが間違いだったんだ」
 俺は駆けた。天使のようなアコさんを追って。
 普段使わない足腰にムチを打ち、息切れするのも構わず走った。
 その甲斐もあってか、彼女の居場所はすぐさま判明した。
 街中央の噴水。ペンチに腰掛け、赤いサンダルを脱いでいる。その艶めかしい脚のラインに目と心と時間を奪われつつ、今まさに例のシューズを履くという世界規模の過ちを阻止する使命感に燃える俺は「やめるんだ止まるんだ、速度減少ぉぉぉぉぉ!」と使えもしないスキル名を喚きながら驚異的な跳躍力でアコさんに飛びかかった。
 驚愕に引き吊ったアコさんの顔が目の前に迫り、そのまま俺たちは重なり合って噴水の中に突っ込んだ。ロマンチックというにはだいぶ程遠い遠いダイブだ。盛大な水しぶきと泡ぶくをあげて冷たい水底に沈む俺は、しかし邪気に染まりかけた天使を救った達成感に酔いしれていた……体ぴったし水浸しになって柔らかくも暖かい密着感が非常にイイ感じで鼻血がやめられないとまらないたまらない、なんていうか致死量。
「おおお、これを世界を救う勇者の所業と行ってよいものか。なんと破廉恥な。真っ昼間にして往来のさなか、いたいけな婦女子をアクティブモンスターのごとく押し倒すとは。ハングリー精神過剰というか、あんぐり開けた口が塞がらんよ」
 ほどなく追ってきた奴が感心したように頷いているのだが、俺はそんなことにまるで関心はなかった。
 問題なのは、目の前に立つアコさんだ。
 天使の微笑みは悪魔の形相へと変貌し、爆裂波動のごとく怒りのLv99オーラを発している。水面がぐつぐつと沸騰しているようだった。
 アコさんは無言で腕を振りかぶり、「変態!」と叫んで拳を繰り出した。手には、しっかりと例のシューズをつかんで。
 衝撃と共にボロ靴を押し付けられ、なんていうか致死量。
 すさまじい臭気が鼻孔を貫き、脳まで達した刺激は一瞬で細胞間の連結を粉砕する。
 スタン効果があるなんて聞いてねぇと文句を垂れつつ、今までの波瀾万丈な人生模様が赤裸々にもキラキラと彩られて脳裏を踊り狂い、まさに渡る世間が走馬燈。
 昏倒した俺はそれで一件落着なわけだが、アコさんの方はびしょびしょで大変だ。
 奴が気を利かせて「俺はこうみえてもマジシャンさ。得意のファイヤーボルトで服を乾かすなんてお手のもの。おっと、誤って全部燃やし尽くしてしまうなんてどうかな。個人的な目の保養も相まって社会全体の福利厚生に適う賞賛すべき善行ではないだろうか」と紳士的に頬笑みかけて、ポタでどこかに飛ばされていた。

 一時間後に俺が目を覚ましたとき、ちょうど奴も遙か遠方より帰還した。
「いやはや、やはり都会は物騒だぜ。なにが起こるかわかったもんじゃない」
 そんな感想を述べる奴だったが、とりあえず新しいシューズと出会えたのだから当面の目標は達成しているのだ。それに引き替え、俺はなんなのだ。骨折り損か。
「見てみろ。せっかくあのアコさんが買ってくれた靴なのに、きっちり返品されてるじゃないか。貴様の鼻孔から噴き出た不浄な血糊が付着したせいだ、たしかにそんな商品の使用を強制されたら元・所有者である俺だって遠慮する、ハエ羽で逃げて法的に訴えるくらいだ」
 一連の展開でさらに疲れた感じの靴が、俺の側に投げ捨てられていた。
 都会エンジョイどころか、この街での行動はすべてカラ回りで終結した。これから誰も貰い手がないであろう靴を抱き、俺はニヒルな醜いアヒルのように悟った笑みを浮かべた。
「これもひとつの思い出なのさ……」
 血染めのシューズ、1個獲得。
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by moruhi | 2005-05-04 14:17 | RO小説